熱帯熱マラリア原虫P. falciparum感染赤血球上で発現する接着性膜タンパクの多様性の解析
森澤 亜希
 熱帯熱マラリアは脳障害、悪性貧血、脾種を三大症状とする感染症であり、WHOによって世界六大感染症の一つに認定されている。感染者はアフリカ、熱帯アジアを中心として年間3~5億人、死亡者は5歳以下の子供を中心に年間数百万人に達し、深刻な問題となっている。熱帯熱マラリアを誘発するのは、原生動物・胞子虫類に属するマラリア原虫である。
 マラリア原虫は蚊をベクター(媒介)としてヒト血流内に侵入、赤血球内に寄生し、48時間で増殖する。赤血球から次世代の原虫を放出しさせ新たに赤血球に感染する。放出しされた原虫の一部は、蚊が感染者を再度吸血した際に蚊の中腸内に戻る。このサイクルを繰り返し感染者を増加し汚染地域を拡大している。
 症状の一つである脳障害の一原因として、感染赤血球が血管内皮細胞に結合することによる血流阻害や炎症性サイトカインの過剰分泌等が示唆されている。この接着の主な要因は感染赤血球表面上に発現する膜タンパクと血管内皮細胞上の接着分子との相互作用によるものであるとされている。一方この膜タンパクは主要抗原タンパクでもあり感染患者からはこのタンパクに対する抗体が検出されていることから、マラリアワクチンのターゲットとして研究されてきた。しかしながら、このタンパクは多様性を獲得しており、赤内型ステージを繰り返し世代を重ねるうちに前世代とは異なる表現型を持つ様になる為、ワクチン開発を困難なものにしている。
 本研究では、この多様性を生み出すメカニズムを解明することを目的としている。

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