豚丹毒に対する、イネを用いた食物ワクチンの開発
田形倫子 <研究の背景、目的>
豚丹毒は豚丹毒菌の感染による豚の感染症で、家畜法定伝染病に指定されている。現在,弱毒生菌や死菌ワクチンによる予防、ペニシリンによる治療がなされているが十分ではなく、現在新たなワクチン法の探索がなされている。そこで、私達は利点の多い食物ワクチンに注目した。近年の遺伝子組換え技術の発展に伴い,ワクチン抗原を可食植物で発現させ,ワクチンとして用いる「edible vaccine」という発想が生まれた。植物を用いた蛋白質産生は大量に行える上、大腸菌発現系、バキュロウイルス発現系等に比べ非常に安価で、安全性も高く、その有用性は高い。さらに作物に抗原蛋白質を産生させ餌として家畜に与えられれば、ワクチン接種の手間とコストが削減でき、また家畜へのストレスも軽減できる。しかし、通常経口免疫では、免疫寛容により全身性の免疫応答が抑制された状態になる。この経口免疫寛容は解除することが可能である。局所のIgA応答を高め,さらに経口免疫寛容を解除し血清抗体応答を誘導するという試みのひとつが粘膜アジュバントの応用である。以前から報告され,最も解析の進んでいるものはコレラ毒素であり、このサブユニットB(CTB)は5量体を形成し腸管から抗原を体内に取り込むM細胞の表面あるGM1ガングリオシドと結合するため,体内に取り込まれやすいという性質を持っている。そこで、CTBを抗原タンパク質と融合させる事により抗原も体内に取りこまれやすくなり,抗原に対する免疫系が活性化されると考えられる。
このCTBをアジュバントとして用い、その効果を検討する。またもうひとつの問題である植物体中における抗原蛋白質の発現量の少なさを解消するために植物としてイネを用いる。イネの胚乳は種子の全重量の80%以上を占めている。その胚乳に特異的に発現するグルテリンのプロモーターであるGluBプロモーターを用いることによってイネは抗原蛋白質を多量に胚乳に貯めることが期待される。本研究ではSpaA40遺伝子をイネに導入し,SpaA40蛋白質発現を確認し、豚に投与し免疫原性を検討するとともに、豚丹毒に対するワクチン効果を検討する。
今までは、アジュバントとしてCTBを用いて、ワクチン抗原タンパクと融合タンパクとして、イネに発現させた。CTB-抗原タンパク質は5量体を形成するが、この時、CTBとGM1gangliosideが結合できないなどの立体障害が起き、ワクチンとしての効果が低くなっているという可能性が考えられる。このことを検討するために、CTBとCTBAs14、CTBAs16のヘテロ5量体を得て、完全な5量体の時と比べて、ワクチンとしての効果の違いを検討する