1.経口免疫による細胞性免疫誘導と感染防御
2.オーエスキー病ウイルス潜伏感染メカニズムの解明
塚本未来

【 経口免疫による細胞性免疫誘導と感染防御 】

ウイルスの宿主固体への侵入は皮膚や粘膜からおこる。感染の進行に伴い、特異的免疫すなわち細胞障害性T細胞応答、抗ウイルス抗体産生が始動する。気道や消化管など粘膜面から侵入してくるウイルスには、IgAクラスの抗体が産生されれば感染を防止できる。しかし、細胞に侵入したウイルスに対して抗体は作用できない。ウイルスは感染後すぐに細胞内に進入し、細胞内で増殖するため、ウイルス感染症の発症予防には細胞性免疫が非常に重要である。

現行の注射による抗原投与では、全身免疫系には抗原特異的免疫応答が効果的に誘導されるが、粘膜免疫系には免疫応答が全く誘導されない。一方、経口免疫といわれる粘膜免疫システムを介した抗原投与法では、粘膜面と全身免疫機構の両方に抗原特異的免疫応答を誘導できる。さらに細胞性免疫を誘導できれば、ウイルス感染症の感染予防と発症予防の両効果が期待できる。

本研究では、経口免疫による細胞性免疫誘導を目的とする。そのモデル抗原として、ブタに感染してオーエスキー病をひきおこすオーエスキー病ウイルス(PrV)を用いる。本疾患は細胞性免疫があがらない場合致死性である。一方、経口免疫では、細胞性免疫は抑制され免疫寛容となるか、液性免疫が誘導されやすい。そこで粘膜アジュバントとして知られるコレラトキシン(CT)およびコレラトキシンBサブユニット(CTB)を抗原と共に投与し、そのアジュバント効果も検討している。(臨床症状および生存率のモニター、IgG,IgG1,IgG2a,IgAに対する抗体価測定、脾細胞の増殖試験、サイトカイン定量、DTH反応、CTL活性測定)

さらに、ウイルスの単一タンパク抗原を用いて特異的免疫を誘導できれば、その遺伝子を植物に導入し、食物ワクチンとして応用することができると考え、現在、ウイルスの主にエンベロープ上の膜抗原であるgDのクローニングを試みている。今後、マクロファージに認識されやすくすることを考え、抗体のFc領域とgD融合タンパク、またプロテアーゼに認識され断片化されやすくすることを考え、ユビキチンとgDの融合タンパクをそれぞれ発現させる予定である。

【 オーエスキー病ウイルス潜伏感染メカニズムの解明 】  

PrVが潜伏感染することに着目した。潜伏状態では、ウイルスゲノムは存在するが遺伝子の発現が強く抑制されている。PrVゲノムはGC richであることから、CpG island で起こりやすいMethylationによる遺伝子発現制御に起因するのではないか、という仮説をたてた。即ち、感染した細胞中のメチル基転移酵素によりウイルスゲノムがメチル化されると遺伝子発現が制御され潜伏状態となり、脱メチル化によりウイルスが再活性化し発病すると考えた。

まず、PrVゲノムから、ウイルスの再活性化に必要なタンパクをコードするDNA(Immediate Early gene)のプロモーターをクローニングする条件を検討した。次にPrV遺伝子は神経向性のウイルスで三叉神経に潜伏するので、経口免疫実験でPrV攻撃後も生き残ったマウスを潜伏感染しているとみなし、脳からDNAを抽出し、決定した条件でIE geneをクローニングした。しかし、目的の断片を得ることができなかった。その原因として、PrVがマウスでは潜伏感染しないという報告があることからも、三叉神経にウイルスゲノムが存在にしていないことが考えられる。

今後、他のマウスの脳からDNAを抽出し、IE geneのクローニングを試み、メチル化状態を検討する。

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