「協治」解題(概要)
1.「協治」の概略
- 地域森林管理における問題点
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・メンバー間の情報伝達の向上 | ・権限の問題 |
・予算の不足 | ・中央政府政策との整合性 |
「地域森林管理」における主体には誰がなるべきか
↓
「開かれた地元主義」にもとづく「協治」が今後進むべき方向
- 「開かれた地元主義」:
- 安易な平等主義、極端な地域主義、地球全体主義からも峻別される概念。
- 「協治」:
- 中央政府、地方自治体、住民、企業、NGO・NPO、地球市民などさまざまな主体(利害関係者)が協働(コラボレーション)して資源管理を行なう仕組み。
- 「協治」に「よそ者」が参画することの正統性の根拠…「かかわり主義」
- 「協治」とは「インターリージョナリズム」を現実のものとするためのもの
- 「協治」の主役は「市民」でなく「ふつうの人々」としての「素民(ソミン/スのタミ)」
- 「素民」のかかわりにおいて重要なのは「有志」の生成
- 「サステイナブル・ソサイエティ」と呼ばれるような社会の構築が目標
2.「開かれた地元主義」と「よそ者」
なぜ、「『開かれた地元主義』か。
- グローバリゼーションの進行により、森林管理を地元住民の福祉・利益だけを考えて行なっていくことは、もはや適切ではない。
- 森林を「地球共用資源(グローバル・コモンズ=人類みんなの資源)」と考える地域外の人間(「よそ者」)が地域住民を脅かしている。
- 地域住民と「よそ者」では、森林の変化から被る影響力は全く違い、それを同列に扱うことには大きな問題がある。
↓
- 「持続的な森林管理」を「地域住民を中心とする森林の『協治』」に求める。
- 地域住民が中心になりつつも、外部の人々と議論して合意を得たうえで協働(コラボレーション)して森を利用し管理。
- 意見対立が起きた際でも、単純に「勝ち負け」を決めず、両者の意見を十分に聴き、ポジティブな意味で両者が納得できるような解決策を考える。(「止揚」)
地域社会とグローバルな価値観との橋渡し役…「よそ者」の関与が重要
「よそ者」:地域住民を理解し、普遍的な価値体系の中で改めて捉えなおす立場
地域住民に求められるもの…「よそ者」の良い点を吸収する意識的・積極的姿勢
3.「かかわり主義」
- 「かかわり主義」:
- 「よそ者がある地域の森林の『協治』にかかわることに正統性を持たせるための原則」
その根拠としての道徳的正統性…地元の人たちによって付与されるもの。
- 「よそ者」は地域住民の主体的行動を促す「側方支援」者。地元の人々を尊重する限りで、「よそ者」による「かかわり」が正統性をもつことが認められる。
- 同じ「地域住民」であっても、「森にまったく興味を持たない人」と「地道に森に通っている人」とで個人に与えられる正統性の強みは異なってくる。
- 「協治」の素地
- 地域住民の「説明」能力の構築
- その地域性を価値あるものとして「了解」する「よそ者」の態度
- そのうえでの当事者間での遠慮のない「批判」の応酬
- 「協治」は「開かれた地元主義」が生みの親、「かかわり主義」が育ての親。ただし、「協治」の発展は「開かれた地元主義」の維持なくしては出来ない。
4.「協治」と「インター・リージョナリズム」
「協治」とは「『インターリージョナリズム』という仏像に魂を入れる作業」
- 「インター・リージョナリズム(寺西)」:
- 「グローバリズム」の先の段階の思想的方向性。地球規模での単一化ではなく、地球規模での価値観の多様化を志向。
- 「リージョン(地域)」:
- 国民国家の枠組を超えつつも、一定の「同質性」としての「地域性」を持つがゆえに地球上の他の「地域」から区別されるようなまとまり。
- 「インター・リージョナリズム」の問題点
- 「地域」間での利害対立が起きた場合、どう克服するか。
- 「リージョン」の内部において意見対立が起こる可能性は?地域内の同質性は保てるのか、平和な形で変化させられるのか。
- 多国籍企業、国際NPOなどの国際アクターの影響
- 「協治」との関連
- 「インター・リージョナリズム」:地域の個別性
↓「かかわり主義」、「よそ者」の普遍的価値観
「協治」:より広い関係性が構築される可能性
「インター・リージョナリズム」 | …‘国’という線引きに伴う地域性の区別 |
「協治」 | …「かかわり」の濃淡=「有志」としての気持ちの強さ |
「かかわり主義」を掲げる「有志」のネットワークは国や地域といった垣根を越えて結成される可能性がある。
5.「素民」から「有志」へ
- 「素民」と「市民」と「有志」:
- 「市民」…個として自律し、私利私欲を超えた公共性をもつ行為を実践できる人。
「素民」…いつも矛盾を抱え、時には私利私欲に走ってしまうような「ふつうの人々」。
「有志」…志ある人びと。自然資源管理などの問題においては、それを実際に担ってきた/担う意思のある人。
- 「有志」はある人間の‘常なる姿’なのではなく、「素民」がある特定の問題に限って見せる“一時のかりそめの姿”。
- 「市民」は『有志』としての資質を抽象化した概念。自分と「かかわり」のない問題にも公共善のために行動を起こせるような存在。 ←現実には存在しない?
- 「協治」論においては、どのような事情・条件のもとでなら「素民」が「有志」へと変貌するのか、いかにして「有志」を「協治」のネットワークの中に組み込んでいくかということが重要な点。
- 「素民」が「素民」として持つ役割…「有志」への信任、正当性の付与。
- 現場の人間でない、‘よそ者素民’の役割…
- グローバルな言説への影響。「協治」という枠組み自体に正統性を与えること。「有志」たちの生き様を支持・支援し、私的利益や一国的国益の追求者を批判・阻止する。
注:文章の引用元、参考文献などは原文を参照のこと。
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