再考、参加型開発(概要)
1.「参加型開発」の登場背景
- ●従来型のトップ・ダウンの政策決定(開発プランや森林管理政策など)に対する批判
↓
- ●RRA(Rapid Rural Appraisal,迅速農村調査)を経て
PRA(Participatory Rural Appraisal,参加型農村調査) の登場
- 専門家の役割の変化…地域住民の主体的行動を促進するための「触媒」
- 地域住民の「エンパワーメント(Empowerment)」に貢献
2.「参加型開発」の理論
- ●参加型開発は「パラダイム・シフト」だとする理論
開発プロセス・要因 |
新パラダイム (エンパワーメント型) |
旧パラダイム (ディス・エンパワーメント型) |
目標 |
人間/基礎社会開発 |
経済成長/開発 |
イニシアチブ |
住民が問題解決のため |
援助側が外交政策や利益のため |
オーナーシップ |
住民・途上国政府 |
一部官僚や援助側 |
開発プロセスの責任 |
住民の自己責任 |
援助側の官僚と納税者に対して |
協力機関との関係性 |
パートナーシップ・平等 |
援助側と被援助側・従属 |
計画作成 |
住民による発展的計画 |
専門家による一方的な決定 |
対象へのアプローチ |
統合的・相互補完的 |
セクター/分野別・垂直型 |
実施支援組織 |
民主的地域組織・NGO |
専門家・統制的中央組織 |
実施形態 |
参加的・自主的 |
外部主導型 |
事業の規模・対象 |
小規模・広範囲 |
大規模・特定地域に偏在 |
利用する資源 |
地域の人材と資源 |
外部の資金・資材と技術者 |
評価 |
住民により継続的・頻繁 |
専門家により短期・1回 |
評価指標 |
人間的・社会的指標 |
物理的・経済的指標 |
形成される心理状態 |
自立性・自尊心の向上 |
依存性・無力感の増加 |
貧富・地域差・性差 |
縮小 |
拡大 |
能力構築 |
高い |
低い |
持続可能性 |
高い |
低い |
- ●UNDPによる「参加型開発」の具体的な実践方法
- @Stakeholder分析、A草の根の情報収集・分析・計画、Bプログラム・プロジェクト計画、C関係者協議会、D大グループ改革
3.「参加型開発」の再検討
「パラダイム・シフト理論」の問題点
- @「パラダイム・シフト」という一貫した動きはあったのか。
- → 上表の変化が一斉に起こったのではなく、現場における試行錯誤の結果
- A参加は必ずしも「善」ではない
- →「参加」に伴うコストの問題
権力者に強制された「非自発的な」参加
リスク、責任の一方的な共有
- B「外部者の参加」と「内部者の参加」が混同されている。(「2つの参加」)
- → もともとは「地域コミュニティへの外部者の参加」。それが「開発への地域住民の参加」にすりかわった。
チェンバースの議論では上表の「形成される心理状態」の変化こそが主眼だったが、パラダイム・シフト論の中で他の項目と同列に扱われてしまい、本来の意味が薄れた。
4.「参加型開発」の矛盾
- ●地域住民が開発者側の担当外の分野で問題を発見してしまったときにどうするか。
- ●地域住民の活動がドナーの考える安全性・持続性の範囲を超えてしまったらどうするか。
- →「参加型開発」を進めると、開発ドナーが「プロジェクトの方向性」をコントロールできなくなる。
- ●「開発」の必要性を決めるのは住民ではない。
- すでに「開発プラン」というレールが敷かれた上での住民参加。住民の意向がどこまで反映できるのか。
- ●「内発的発展論」
- その地域の人々が固有に持つ文化・経験をもとにして、地域の人々自身の手によって「発展」が行なわれることを良しとする考え
→問題点:誰が「内発」の有無を判定するのか
「内発的発展」の事例を誰が評価するのか
「開発」が介入行為である以上、それが正当化されるためには、開発の結果としての発展が望ましいものかどうか、当事者間の価値観の共通理解が必要。
これらを踏まえて、改めて「地域住民の参加」の形・状態を考える必要がある。
注:図表や文章の引用元、参考文献などは原文を参照のこと。
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