国際植物資源科学研究室 (宮沢研究室)

 Laboratory of Sustainable Agriculture (Miyazawa Lab.)

東京大学大学院

農学生命科学研究科

農学国際専攻

国際植物資源科学研究室































ようこそ国際植物資源科学研究室へ!

Welcome to the Laboratory of Sustainable Agriculture


  • 農業を含む人間の活動は、
    生態系の循環や持続性を保つ機能に大きな負荷をかけており、
    このままでは環境は悪化の一途をたどることが懸念されています。

    私たちの研究室が目指しているのは、
    人が食料を生産して豊かに生きていくこと自体が、
    地球環境や生態系を豊かにできるような
    技術やシステムを作っていくことです。

  • Human activities including agricultural practices place a heavy burden on the functioning of ecosystems, and the deterioration of environmental quality has been a big concern.

    Our laboratory is aiming to create technology and systems that make it possible for people to produce abundant and high quality food while enriching the environment and biodiversity.


Staff

A/Prof. Kae Miyazawa

准教授 宮沢佳恵

子供のころから虫や山や海が大好きで、その興味のまま大学で生物学を専攻。バックパッカーとして世界各国をまわる中で、蛍が乱舞する田んぼや、自然農法やパーマカルチャーの考え方に出会い、自然生態系と調和した農業の面白さに目覚める。農学博士を取得後、国立研究開発法人農研機構で環境保全型農業の技術開発の研究を行なっていたが、たとえ自然生態系と調和した農業技術ができたとしても、現在の社会システムの中ではそれを普及していくのは難しいことを実感。その後、震災が人生の転機となり期せずして大学に移る。現在は、「人々の日常の行動が変わるのは、生態系に良いかどうかではなく、その行動自体が喜びとなり幸福感をもたらすときである」という仮説のもと、学生と共に自然と調和した食に関わることの喜びを伝える食育や流通、無農薬でおいしい野菜が作れる農法、パーマカルチャー、コミュニティーガーデン、日本ミツバチ飼育などを含む幅広い研究を展開中。

宮沢研の研究内容

自然生態系を利用した野菜栽培

私たちが農作物を栽培している土地は、放置しておけばやがて森林になっていく大きな流れがあります。その流れに逆らって毎年特定の農作物を栽培し、生育を均一に収量を最大にするためには、毎回の耕起、施肥、農薬散布や除草などの莫大なエネルギーと資材と労力がかかります。 自然生態系の流れに逆らうのではなく、上手に利用することでエネルギー・資源・労力を低減し、持続的に収量や品質を確保して野菜を育てることができるでしょうか? 土壌生態系の機能を最大限に引き出すこと、地域の有機物資源をエネルギー・資源として用いること、耕地生態系を豊かにすることで食物連鎖により害虫の被害を低減することなど、様々な技術を検証しながら栽培試験を行っています。

美味しい野菜の広げ方

みなさんは、この野菜おいしい!と感動した食体験はありませんか?野菜の味は、鮮度や時期、品種、土壌環境によっても大きく変わります。ですので、スーパーで例えば同じ品種の野菜を買っても必ずしも同じような感動の味に出会うとは限りません。おいしい野菜はどうやったらできるのでしょうか。そして生産者の方々のおいしい野菜を提供したいという思いを消費者とを結んで、 生産、流通、消費の各段階にかかわる人々が心から喜べる仕組みを作るにはどうしたらいいのでしょうか。自然科学と社会科学の両方のアプローチから、おいしい野菜をみんなが食べられる社会を作るために研究をしています。

Radical Carbon Farmingのプロジェクト

現在注目しているのが、炭素循環を高めることで、自然循環型でありながら、収量や品質が従来の農法よりも高くなるという方法です。Carbon Farming(緑肥や不耕起により炭素を土壌に貯留しようとする農法)よりも積極的にCarbonを利用するという意味で、私たちはこれを「Radical Carbon Farming」と呼んでいます。

生産力の高い自然生態系では、生産力の低い生態系に比べて炭素フラックス(バイオマス→土壌→大気間などの炭素の移動量)が大きくなります。自然条件でこの炭素の循環を大きくしていくには長い年月がかかります。植物が炭素を固定し、その炭素を利用して窒素固定菌が窒素を固定し、固定された窒素を使って植物が炭素をさらに固定して、徐々に循環が大きくなっていきます。その過程で土壌中に炭素が十分に蓄積され、生産性の高い生態系に成長していきます。現在取り組んでいるRadical Carbon Farmingは、土着の糸状菌を利用してこのプロセスを短期間(数カ月以内)に畑で完結させることを目的としています。

このRadical Carbon Farmingは、これまで提唱されてきた有機農業とも一線を画す技術になります。これまで緑肥や有機物を畑に施用することが行われてきましたが、通常の畑環境ではバクテリアが優占するため、priming effectと呼ばれるバクテリアの急激な増殖・有機物分解が起こり、有機物を供給しても結局は土壌有機物が減少してしまうことがあります。バクテリアではなく糸状菌を畑で十分に発達させることにより、炭素を菌糸の中に保持することができ、短期的なバクテリアによる有機物分解経由ではなく、長期的に菌糸体から植物に十分な養分を供給できるのではないかと考えています。また、菌糸ネットワークが土壌深くまで入り込むことにより、土壌の団粒化もすすみ、畑で一般的に見られる硬盤層の問題も改善できる可能性があります。

この方法は、篤農家によって提案され、日本でさまざまな農家が挑戦してきましたが、そのメカニズムが解明されていないこともあり失敗に終わる農家が後を経ちませんでした。私たちは、この農法で作物の収量・品質ともに慣行栽培以上の栽培に成功している農家の方々に協力していただき、その技術を試験圃場において再現し、学術的なデータを蓄積することで安定した技術にすることを目指しています。

さらに、この農法では有機物資源として木質チップを使うことができます。現在日本には、多くの管理が必要となっている放置林がありますが、森林管理で生じる剪定枝等を畑で利用することで、畑と森の両方からの恵みだけではなく、その循環を用いることで地域の豊かな生態系を作り出すことができる可能性があります。そこで、放置人工林の森林再生を行なっている企業と共同で、畑と森が隣接する場所でのプロジェクトを行なっています。