宮沢研の研究内容

自然生態系を利用した野菜栽培

私たちが農作物を栽培している土地は、放置しておけばやがて森林になっていく大きな流れがあります。その流れに逆らって毎年特定の農作物を栽培し、生育を均一に収量を最大にするためには、毎回の耕起、施肥、農薬散布や除草などの莫大なエネルギーと資材と労力がかかります。 自然生態系の流れに逆らうのではなく、上手に利用することでエネルギー・資源・労力を低減し、持続的に収量や品質を確保して野菜を育てることができるでしょうか? 土壌生態系の機能を最大限に引き出すこと、地域の有機物資源をエネルギー・資源として用いること、耕地生態系を豊かにすることで食物連鎖により害虫の被害を低減することなど、様々な技術を検証しながら栽培試験を行っています。

 

おいしい野菜の広げ方

みなさんは、この野菜おいしい!と感動した食体験はありませんか?野菜の味は、鮮度や時期、品種、土壌環境によっても大きく変わります。ですので、スーパーで例えば同じ品種の野菜を買っても必ずしも同じような感動の味に出会うとは限りません。おいしい野菜はどうやったらできるのでしょうか。そして生産者の方々のおいしい野菜を提供したいという思いを消費者とを結んで、 生産、流通、消費の各段階にかかわる人々が心から喜べる仕組みを作るにはどうしたらいいのでしょうか。自然科学と社会科学の両方のアプローチから、おいしい野菜をみんなが食べられる社会を作るために研究をしています。

Radical Carbon Farmingのプロジェクト

現在注目しているのが、炭素循環を高めることで、自然循環型でありながら、収量や品質が従来の農法よりも高くなるという方法です。私たちはこれをCarbon Farming(緑肥や不耕起により炭素を土壌に貯留しようとする農法)よりも積極的にCarbonを利用するという意味で、「Radical Carbon Farming」と呼んでいます。バイオマスの多い豊かな生態系では、炭素のフラックスが大きくなります。植物が炭素を固定し、窒素固定菌が植物から供給される炭素を使って窒素を固定し、固定された窒素を使って植物が炭素をさらに固定して、循環が大きくなっていきます。現在取り組んでいるRadical Carbon Farmingは、このプロセスを短期間(数カ月以内)に畑で完結させることを目的としています。 この方法は、従来の農学からするとパラダイムシフトとなるような、常識はずれのやり方です。まず、従来は窒素飢餓を引き起こすとされていたCN比の高い有機物を大量に畑に施用します。最も重要なのはこの時に糸状菌が十分に発育できる環境を整えることです。バクテリアの代わりに糸状菌を優占させることで、土壌の団粒化が進み、硬盤層の問題を解決することができます。土壌中の炭素量が増え、シンク機能が十分に発揮されるため、土壌のもつ大気中のCO2増減の緩衝機能を十分に発揮させることができます。このようにして、まるで森林土壌のように豊かに炭素貯留し、かつそこで生育・収量・品質ともに優れた作物を作ることができている篤農家の畑をこれまで調査してきました。 このラディカル・カーボン・ファーミングは、これまで提唱されてきた有機農業とも一線を画す技術になります。これまで緑肥や有機物を畑に施用することが行われてきましたが、バクテリアが優先する土壌である限り、priming effectと呼ばれるバクテリアの増殖・有機物分解が起こり、有機物を供給しても結局は土壌有機物の減少を招くことがあります。バクテリアではなく糸状菌を畑で十分に発達させることにより、炭素を菌糸の中に保持することができます。そして菌糸ネットワークが土壌深くまで入り込むことにより、短期的なバクテリアによる有機物分解経由ではなく、長期的に菌糸体から植物に十分な養分を供給できるのではないかと考えています。 この方法は、篤農家によって提案され、日本でさまざまな農家が挑戦してきましたが、そのメカニズムが解明されていないこともあり失敗に終わる農家が後を経ちませんでした。私たちは、この農法で作物の収量・品質ともに慣行栽培以上の栽培に成功している農家の方々に協力していただき、その技術を試験圃場において再現し、学術的なデータを蓄積することで安定した技術にすることを目指しています。 さらに、この農法では有機物資源として木質チップを使うこともできるので、かつての里山のように、畑と森が繋がっている環境が理想的なモデルの一つであると考えています。そこで、放置人工林の森林再生を行なっている企業と共同で、畑と森が隣接する場所でのプロジェクトを行なっています。

参考:これまでの研究テーマ例
・環境保全型技術の組み合わせに対する作物と耕地生態系の反応
・栽培方法による野菜の生育・品質・食味・環境保全効果
・混作栽培・緑肥によるリン循環効果に関する研究
・定植前リン苗施用によるリン酸減肥
・クエン酸施用による乾燥ストレスの軽減
・高CN比の緑肥すき込みによる土壌肥沃度の変化
・根の浸出液とその植物同士のシグナルとしての可能性
・都心での新たな八百屋業の成功要因
・日本の公立小学校におけるエディブルスクールヤードプロジェクト
・コミュニティーガーデンの継続要因
・フローハイブによる日本ミツバチの飼育可能性