木材の細胞構造をマイクロサイズの反応容器として利用して「円錐黒鉛ウイスカ」を採る
木炭をつく
る過程で失われる熱分解ガスを利用して、カーボンマイクロフィラメントを創製しました。従来の木炭化のように、植物の細胞壁そのものを固相のまま熱変成さ
せる「固相炭素化」では、原料の構造履歴が影響するので、配向規則性や結晶性をもつ材料を得ることができません。熱分解ガスとして気化した炭素を固相に沈
着させる「気相炭素化」によって、従来の木材原料からは得られない、高規則性のカーボン材料を創ることができました。
植物、とくに木材
は堅固な細胞壁によるポラス構造を持ちますが、気相炭素化でこの特性が役立ちます。細胞壁は、炭素材料の原料となる炭素ガス源でもありますが、同時に、空
間をマイクロオーダーの微小な部屋に仕切り、発生したガスをその部屋の中にを溜め込み、少量のガスで高濃度を実現する役割も果たします。いわば細胞がマイ
クロサイズの反応容器として機能して(セルリアクター)、その中で炭素ガスの過飽和状態が容易に達成され、炭素が固相に沈着することで、気相成長炭素が生
成します。
気相炭化により、木材の細胞内腔に「円錐黒鉛ウイスカ」を創り出しました(図1)。円錐黒鉛ウイスカは、木材を2000℃で
加熱し、SiCを核として作用させることで得た、径数マイクロメートル、長さ数10マイクロメートルのひげ状突起物1)です。透過電子顕微鏡による高分解
能観察から、炭素六角網面が円錐をなして堆積した構造を持つことが明らかとなりました(図2)。円錐黒鉛ウイスカの特徴は、炭素六角網平面のエッジがウイ
スカ側面に位置していることです。この構造規則性は、特異な電磁気特性と表面特性の発現に寄与します。
セルリアクターによる気相炭化のしくみは、細胞壁を持つ様々な植物素材に応用可能です。この機構を積極的に制御することで、従来にない新規なカーボン材料創製を、植物バイオマスから展開できる可能性があります。
 図1 |
 図2 |
(参考文献)
1)Saito Y, Arima T. J Wood Sci 2004; 50, 87-92.
2) Saito Y, Arima T. Carbon 2007; 45, 248-55.