斎藤幸恵 教授

国際植物材料科学研究室(国際植物生産学大講座)

■ 専門分野 生物材料物理学、植物材料組織学、炭素材料学

■経歴

1992年 京都大学農学部林産工学科 卒業
1997年 東京大学大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専門課程博士課程修了
1997年 東京大学大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻助手
2008年 東京大学大学院農学生命科学研究科 農学国際専攻准教授
2018年 東京大学大学院農学生命科学研究科 農学国際専攻教授
この間
1995-1996年 植物高分子研究所(CNRS, フランス)に在学
1996-1997年 日本学術振興会特別研究員

■研究関心

未利用の植物バイオマスの中には、材料として利用可能性なものが豊富にあります。植物材料の有効な利用技術の開発、機能材料化を目指しています。

そのひとつに、廃材や未利用の植物材料の炭化による再利用があります。炭素材料分野は、空気質・水質汚染物質の除去に役立つ吸着剤や、電池材料などを提供す る、身近な工業分野です。石油原料ではなく植物材料を原料にして炭素材料を創る場合、植物材料の特徴を最大限に活かすような方法と材料設計を目指すことが、環境負荷を最小限にするためにも、利用価値ある材料を創るためにも、必要です。植物材料の組成に適合した炭化技術や、植物が生き物として持つ構造の特 徴を活かしたカーボン材料を提案することを目指します。

 たとえば、木炭をつくる過程で失われる熱分解ガスから、高規則性のカーボン材料 を創る研究をしています。また、植物材料由来の炭化物は、石油原料由来の炭化物にない独特な非秩序構造を持つので、それらが吸着や、炭素六角網平面層間へ の分子取り込みの機構に与える影響を調べ、この非秩序構造を逆に利用した材料化を試みています。さらに、植物に微量に含まれる固有の無機元素が、炭化機構 に与える触媒作用などの影響、得られる炭化物の構造変化への影響などについても調べ、より適した材料化に役立てようとしています。

■研究例

木材の細胞構造をマイクロサイズの反応容器として利用して「円錐黒鉛ウイスカ」を採る

木炭をつくる過程で失われる熱分解ガスを利用して、カーボンマイクロフィラメントを創製しました。従来の木炭化のように、植物の細胞壁そのものを固相のまま熱変成さ せる「固相炭素化」では、原料の構造履歴が影響するので、配向規則性や結晶性をもつ材料を得ることができません。熱分解ガスとして気化した炭素を固相に沈 着させる「気相炭素化」によって、従来の木材原料からは得られない、高規則性のカーボン材料を創ることができました。

植物、とくに木材 は堅固な細胞壁によるポラス構造を持ちますが、気相炭素化でこの特性が役立ちます。細胞壁は、炭素材料の原料となる炭素ガス源でもありますが、同時に、空 間をマイクロオーダーの微小な部屋に仕切り、発生したガスをその部屋の中にを溜め込み、少量のガスで高濃度を実現する役割も果たします。いわば細胞がマイ クロサイズの反応容器として機能して(セルリアクター)、その中で炭素ガスの過飽和状態が容易に達成され、炭素が固相に沈着することで、気相成長炭素が生成します。

気相炭化により、木材の細胞内腔に「円錐黒鉛ウイスカ」を創り出しました(図1)。円錐黒鉛ウイスカは、木材を2000℃で 加熱し、SiCを核として作用させることで得た、径数マイクロメートル、長さ数10マイクロメートルのひげ状突起物1)です。透過電子顕微鏡による高分解 能観察から、炭素六角網面が円錐をなして堆積した構造を持つことが明らかとなりました(図2)。円錐黒鉛ウイスカの特徴は、炭素六角網平面のエッジがウイ スカ側面に位置していることです。この構造規則性は、特異な電磁気特性と表面特性の発現に寄与します。

セルリアクターによる気相炭化のしくみは、細胞壁を持つ様々な植物素材に応用可能です。この機構を積極的に制御することで、従来にない新規なカーボン材料創製を、植物バイオマスから展開できる可能性があります。

図1

図2

(参考文献)
1) Saito Y, Arima T.  J Wood Sci  2004; 50, 87-92.
2) Saito Y, Arima T.  Carbon 2007; 45, 248-55.