Go Global ~農学系の大学院留学・海外研究を応援します~
・自然科学者にあこがれていた駒場時代
理科2類に入学した時の私は、自然科学の研究者に何となく憧れを抱いていました。多田富雄先生の「免疫の意味論」を読んで感銘を受けたのを今でも覚えています。ところがいざ駒場の授業で色々な実験をやってみると、全く向いていないことに気づきました。白衣や実験用ゴーグルを長時間つけているのに耐えられず、また実験室の中にこもっているというのも世界から取り残されている感じがして嫌でした。自分は自然よりも人を相手にする仕事の方が向いているなと感じました。しかし具体的に何をしたいかははっきりしていなかったので、当時興味のあった環境問題や食糧問題に対して多様なアプローチで解決を目指している国際開発農学専修に進学しました。
・ キャリアを決定づけた研究室選び
国際開発農学専修に入った時点で、まだ水産には全く興味がありませんでした。4年生になる際の研究室配属の時点でも特に水産をやりたかったわけではなく、自然よりも人間を対象に研究したいなと考えていた程度です。そこで迷った末、私の研究室選びの基準は「一番面白そうな先生のところに行く」でした。そして当時の教員の中で一番面白そうだったのが、国際水産開発学研究室の黒倉先生でした。黒倉先生には「これからの水産分野には経済の専門家が必要だ。君がそれになりなさい。」と言われました。自分の人生で何を目標とすればよいか悩んでいた私にとって、この言葉は大きなモチベーションになりました。
・留学を考え始めた博士課程1年時代
農学国際専攻で博士課程まで順調に進学しましたが、当時の私は自分の経済学の理解の浅さに悩んでいました。経済学部の授業に出たり、農業資源経済学専攻の先輩方の自主ゼミに混ぜてもらったりすると、全く議論についていけないのです。経済学の本場で対等に議論できないようでは水産経済の専門家とは言えない。こう思った私は、東大の博士課程を中退し、カルガリー大学経済学部の博士課程に入り直しました。カルガリー大学に決めた理由は、その前年に国際ワークショップでお会いしたDaniel V. Gordon先生がいたからです。先生に留学の相談をしたところ、“You must come”と言われて留学の決心がつきました。
・ 東大を中退してカナダへ
当時英語はほとんど話せなかったので、留学が決まってからは英会話スクールで猛特訓をしました。しかし、いざ留学してみると最初はやはり全然意思疎通できませんでした。そこで勉強をものすごく頑張ることにしました。そうすると、勉強を教えてほしいクラスメートが質問しに来るので、自然と英語力も上がるというわけです。また、勉強をものすごく頑張った結果として、運よくM. Scott Taylor先生の目に留まり、博士の指導教員を引き受けてもらえることになりました。Taylor先生は環境経済学において圧倒的な研究業績をもつカルガリー大学経済学部の中心人物です。彼の丁寧な指導のお陰で、私の経済学に対する理解は飛躍的に深まりました。また、学術研究の面白さにも改めて気が付きました。
・「外」に飛び出す
これまでのキャリアを振り返ってみてよかったと思っているのは、常に「外」の世界に飛び出すことを意識していたことです。農国にいながら経済学部の授業や農業経済のゼミに参加したこと、そして東大を中退してカナダに留学したことなど、「外」に出るたびに大きく成長することができたと感じています。皆さんにも積極的に「外」に出ていってほしいと思います。特に、若い方には海外に年単位で行くことを強くお勧めします。英語ができるようになるのはもちろんですが、様々な国の人間と切磋琢磨して生きる経験は人間としての幅を格段に広げます。日本が如何に特殊な国なのかもよく分かります。さらに、新しい出会いを多くする中で、将来やりたいことも明確になってくるでしょう。Let’s Go Global!
こんにちは、武田直也と申します。学部は国際開発農学専修、修士は農学国際専攻(IPADS)で岡田研究室に在籍しながら南米コロンビアに一年弱滞在して研究留学をしました。現在は豪州クイーンズランド工科大学(QUT)の博士課程に在籍しています。
修士のコロンビアでの研究留学は、所属の農学国際専攻(IPADS)のコースワークや論文執筆などは東京で、留学部分は純粋に現地でのプロジェクト関連活動、という形式でした。南米型節資源稲作システムの開発という農業支援の文脈におけるJICAプロジェクト(SATREPS)の一環であり、国際農業研究機関(CIAT)とも連携しつつ、現地の農家や組織と協働しながらの活動をメインとして現場に根差した研究をすることができました。研究で用いた手法を現地組織のスタッフに教えたり、研究成果を地域農家にプレゼンやフィールドデイで伝えるなどのアウトリーチ活動もできました。
博士ではQUTへの正規留学のためすべての活動がオーストラリアに移り、また研究内容も大きく変わりました。現地で盛んなサトウキビ栽培における温暖化効果ガス排出削減のための施肥管理最適化を研究対象とし、より環境負荷を重視した持続可能な農業という先進国寄りな文脈となりました。オーストラリアは農業分野では国内プロジェクトが盛んな一方で途上国開発の文脈での研究は控えめなように見受けられます。ただ対象地・産業は国内重視であっても研究設計はSDGsなどグローバルな文脈に沿っていて世界水準の研究成果を数多く輩出しています。自分の所属も、作物システムでの温暖化ガス排出や炭素や窒素の循環と利用効率などのコアのトピックは時代の潮流に乗っていて、研究者や設備・プロジェクトの拡大に加えエンジニアやフィールドスタッフを擁し、チームとして第一線の研究をする環境を有していて、研究者としてとてもやりがいがありました。
こうした留学を通じて、農業分野における研究者という立場がローカルかつグローバルで、創造的に社会貢献しうる選択肢だと魅力を感じてきました。生活と研究双方において全く異なる環境を経験することになる留学は大きな一歩で、時に苦労も多くなり得ますが、そうして得られる体験の一つ一つが研究のみならず自分の人生をより豊かにしています。興味があれば是非、早いうちから積極的に動き出してみることをお勧めします!
途上国実地研究のすすめ
現在私は、東ティモールの農村部にて半年間、稲作に関する実地研究を行っています。当然、僻地での研究活動には多くの困難が伴います。天候が悪いとネットに繋がらずググることすらできませんし、パソコンが故障したら往復14時間かけて首都まで行く必要があります。私にはこれまで1週間程度の海外経験しかなかったので、言語や文化の壁を越え、現地の方々とコミュニケーションを取ることすら最初は手探りでした。
しかし私は、現地での活動を通して、途上国における実地研究にはそんな困難を凌駕する魅力があると確信しています。ここでは、その魅力を大きく二つに分けてみなさんにお伝えしたいと思います。
一つは、「人々の暮らしの中で自分の研究を捉え直すことができる」という点です。日本にいながら、途上国のリアリティと自らの研究テーマのつながりを理解するのは簡単ではありません。私自身、卒論研究を行っていた時には実体験の無さをもどかしく感じていました。しかし現地社会に飛び込んで生活を共にすることで、そのつながりを目の当たりにすることができます。例えば、私が活動している地域の農家さんは、乾季になると伝統行事のため遠方の村を何度も訪れなくてはなりません。そのため乾季農業は粗放的になり、省力化技術が受け入れられやすいといえます。稲作省力化をテーマに研究している私にとって、この事実は非常に興味深く、研究意欲も向上しました。このように、現地のリアリティと研究のつながりを自らの目と耳で直接インプットできるところは、私の考える実地研究の最大の魅力です。
もう一つの魅力は、「自分自身の成長につながる」という点です。先ほども書いたように、途上国での研究・生活には常に何らかの制約があります。それらを乗り越えるために試行錯誤を繰り返す中で、自分の中の変化や成長を確かに感じることができます。タフネスはもちろんのこと、現地の関係者の方々を巻き込む力、研究調査遂行のための計画・実行力など、研究者というキャリアでなくとも役立つ能力が身につくと私は考えています。もちろんこれらの力は日本にいても十分身につくものですが、「追い込まれたときにこそ成長できる」という人は多いのではないでしょうか。実地研究の本質的な目的ではないものの、一つの大きな魅力だと思います。
ここまで、二つの観点から実地研究の魅力をお伝えしてきましたが、まとめてしまえば「とにかく楽しい」という一言に尽きます。生活にしても研究にしても毎日新しい発見があり、この土地の人・農業・文化に対する興味が尽きることはありません。そして、このことは東ティモール以外の多くの途上国にも共通して言えることなのではないかと思います。
最後に、海外(途上国)で実地研究をしたいと考える人に向けて、僭越ながら少しアドバイスをさせていただければと思います。このような情勢にも関わらず私が実地研究を実施できているのは、研究室の指導教員のご協力のおかげに他なりません。指導教員に現地カウンターパートとのコネクションがあり、かつ実地研究に対して協力的であることが実施の必要条件です。幸い、農学生命科学研究科にはそのような先生方が多いように感じるので、まずはぜひ各種ホームページで研究室の過去研究や指導教員の経歴を確認してみてください。
また当然、滞在費や渡航費などお金の問題もクリアする必要があります。実地研究はいわゆる「留学」とは少し異なるため、奨学金などのイメージがあまり無いかもしれません。しかし、農学生命科学研究科の「国際交流促進プログラム」など、海外における学術調査を金銭的に支援してくれる制度が学内に存在しています(2022年度時点)。また、学外の奨学金の中にも、留学だけでなく研究目的でも利用できるものがあるそうです。このアドバイスは自戒を含んでいますが、そういった制度は締切が早いことが多いので、先んじて色々と調べておくことをお勧めします。限りある機会を逃すことなく、ぜひ途上国実地研究に挑戦してみてください。
ストックホルム大学修士課程への進学、その後
こんにちは。国際開発農学専修を2021年3月に卒業し、現在スウェーデンのストックホルム大学の修士課程に在籍している鶴原啓といいます。大学院では環境科学を専攻しており、気候変動をはじめとしたグローバルな環境問題のメカニズムや相互の関連性などを学んでいます。ここでは、大学院進学に至った経緯や海外生活の様子をお伝えできればと考えています。少しでも興味を持っていただければ幸いです。
学部時代の卒論では環境化学的なアプローチで研究を行い、よりグローバルな研究ができる場所を求めて海外大学院への正規進学という道を選択するに至りました。進学の準備を進める中で、多くの国のプログラム等を調べました。プログラムの中身、必要な応募書類や学費など大学によってかなり異なるため、大学によっては応募自体が大変な場合もありますが、とても簡単に応募できるケースもあります。思っていたほどハードルが高くないというのが僕の印象でした。学費についても、国によっては無料に近い大学もあります。僕の大学の場合、EU圏外の学生は学費が発生しますが、進学準備の段階で日本の財団の奨学金に応募し、現在までご支援いただいています。応募書類の準備等が少し大変ですが、可能であれば奨学金にも応募すると良いと思います。
無事合格をいただいた後、昨年の夏に渡航をして修士1年目をスタートさせました。海外生活の経験もなかったため、全てが英語という学習環境に慣れるのには苦労しましたが、それでも徐々に慣れることができました。ヨーロッパの大学の修士課程(2年)では1年目は講義中心、2年目に研究中心という場合が多いため、この1年で基本的なことから実際に研究に繋がりそうな話まで多くを学ぶことができました。専攻を若干変えた身としてはとても助かっています。また、ストックホルム大学には国外からの留学生もたくさんいるため、留学生向けの説明会があったりHPの情報が充実していたりとサポート体制はしっかりしています。
正規留学のメリットとして、留学先を自由に選べるという点があげられると思います。僕が住んでいるスウェーデンのストックホルムは、街も大学も開放的で自然が豊かという点でとても居心地がいいです。緯度が高く気候は大きく違いますが、だからこそ味わえる感動や発見が多くあります。また、街並みや人々の雰囲気など日本とはまた違ったよさが感じられる部分が多々あります。学びながらそうした日本との違いを感じられるのも留学の醍醐味だと思っています。
留学生活は残り1年になりましたが、有意義な時間を過ごせればと考えています。少しでも海外生活や海外での学びの機会に興味がある方は、これを気にぜひ情報収集をしてみてください。(2022.7.25)
農学国際専攻の修士課程に在学中、全学交換留学の制度を利用して、約1年間オーストラリアのメルボルン大学に留学しました。メルボルン大学では、農学国際専攻での所属研究室である新機能植物開発学研究室と同じ、植物の鉄栄養分野の研究を行なっているメルボルン大学の研究室に所属し、小麦の鉄栄養素強化に関する研究を行いました。留学中は、日々の授業の履修から実験、研究室のゼミ発表、論文紹介、研究論文の執筆を当然のことながら全て英語で行いました。それまで長期で海外に滞在した経験がなかったため、英語で専門的な研究を行うことには非常に苦労しましたが、受け入れ先が非常に面倒見の良い研究室だったこともあり、1年間で英語力のみならず、論文の執筆や研究内容のプレゼンの能力を飛躍的に向上させることができました。
また、研究室以外でも、大学のイベントやクラブ活動を通じて、世界中から集まった留学生や研究者との交流し、様々な国の文化や考え方に触れたことで、視野が広がったと感じています。留学中に知り合った海外の友人とは、帰国後3年以上経った今でも折に触れて連絡をとっており、貴重な財産となっています。
農学国際専攻では、留学やインターン等の形で海外に渡航する学生が多いこともあり、私の留学にあたっても一部の必修授業について、留学先からのオンラインでの参加を認めていただくなど柔軟に対応してもらえたため、留学をしながらも標準的な修業期間の2年間で修士課程を修了することができました。また、留学にあたっては、農学生命科学研究科から、研究留学を行う大学院生向けの奨学金をいただいたことで、金銭的な負担も軽減され、現地での研究活動に専念することができました。
2020年に農学国際専攻を修了後、現在は公的機関に勤務しています。修士課程の研究内容とは直接は関係しない分野の仕事についていますが、農学国際専攻の講義やフィールドワーク、研究活動、そして留学を通じて培った知識、スキルと経験は、現在の業務にも非常に役立っていると感じています。また、農学国際専攻において、途上国の農業開発という共通の興味・関心を持ちながらも、異なる切り口の研究で問題解決に取り組む人々とともに修士課程の2年間を過ごせたことは、その後にもつながっている人的ネットワークも含め、非常に貴重な財産となっています。